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卒業

卒業式は自分でも意外なほどあっさりしたものだった。
先日来、万感胸に迫る思いで準備してきた、次男の小学校卒業であるのに。

時間の余裕がなかったのもいけなかった。
朝、いつもの登校時間に子どもを支度させて送り出したあと、
バタバタとキッチンを片付け、自分も身支度。
思ったより手間取り、予定していた時刻より15分遅れて家を出た。
しかも、久しぶりに履いたハイヒールでは思うように歩けない。
会場に到着したときにはすでに保護者席の8割がたは埋まっていて、ビデオ撮影するのにいい席を選ぶどころではなかった。
なんとか席を確保し、多少の緊張、そしてどこかそわそわ落ち着かない気持ちのまま、開式のときを待つ。
やがて、在校生や来賓も入場、着席。
いよいよ、卒業生の入場だ。
保護者席の隙間から、カメラで子どもたちを追う。
おぉ、わが子の姿、発見!
スーツの上着はへたにサイズを直すことをやめ、あえて大きいまま着せた。
やっぱり少し大きいけど、でも、うん、いいよ!似合ってる。
なかなか、男前だわよ~ と親ばかカメラマンは心の中で叫ぶ。
しかし、それも束の間、愛しいわが子は集団の中にすっぽり隠れ、見えなくなった。
はっきり言って、入場と退場、卒業証書授与のとき以外は、わが子の姿はチラとも見えない。
あぁ、これって背の順じゃないのよね…

それでも、母はめげない。
国歌に続き校歌斉唱、卒業の歌のときも、カメラを回す。
姿は見えなくても、この集団の中にかわいいわが子がいると思うだけで、その空間すべてが愛おしい。
画面には映らない子どもたち一人一人の存在も、間違いなくこの場を構成している大事な要員。
その全員によって式場のこの空気も作り出されている。
その空気を含め、今この時にここで行われていることを映像として留めるために、なおもカメラを構え続けていると、不意に、
こうやってわが子の姿をカメラで追い回すこともこれからはなくなっていくのだろうという、また別の感慨に私はとらわれるのだった。
子どもが成長し親の手を離れていくにつれ、カメラの出番は確実に減っていく。
そんなことを考えて、目は式典に向けられていながらも、私の心はどこか遠くの異次元空間を彷徨い始めた。

式のあと、小学校最後の学級活動が終わり、子どもたちが校庭に姿を現した。
みんな記念の写真を撮り合ったり、泣いたり笑ったり、賑やかである。
そこここで繰り広げられる感動シーンの間を縫って、わが子を探す。
いた。
笑顔を向けるが、あらら? なぜかご機嫌ナナメ。
それもかなりの傾斜をつけたナナメである。
理由はわからないが、ぶすっとしてすこぶる感じが悪い。
なに?なんなの?この晴れの日にそれ?どうして?
合点がいかないけれど、その場でそれを糺して叱りつけても仕方がない。
あぁもう!と思いながらも、お世話になった担任の先生に挨拶だけはさせ、写真撮影もそこそこに学校をあとにする私たち親子。
そんなこんなで、結局子どもの卒業式という慶事に今一つ気持ちが浸りきれないまま、
私はその大事な一日を過ごしてしまったのである。

帰宅しても、次男の機嫌は直らなかった。
なにかあったのか?と夫に訊かれても、私だって皆目分からない。
そっとしておくしかないわね と私が言い、そうだな と夫も言う。
せっかくの卒業式なのに…という言葉が口から出そうになるのを飲み込んで、素知らぬふうで夕食の準備を始めた。
ところが、振り向くと、いつからそこにいたのか、ダイニングに次男がいる。
次男がいつものように、いや、いつもに増して機嫌のよさを漂わせている。
え?と思い、もう一度顔を見ると…
笑ってる!coldsweats02
あれ~???
原因不明の不機嫌は、いつの間にか予告なく、ケロリと直ってしまっていた。
鼻歌さえ口ずさむその様子は、先ほどまでとは別人のよう。
それを見てほっとしたのも事実だが、あまりと言えばあまりの身勝手さに呆れてしまう。
ほんとにもう、どうなっているんだろう。

その謎は翌日になって解明された。
次男とのやり取りの中で分かったのだが、大切な友達と仲直りをしたんだそうだ。
実は次男、一年生のときからの仲良し四人組のうちの一人と、ずいぶん長いこと仲違いをしていたのだ。
5年生の冬からだから、もうまる一年余りになる。
ほかの二人よりも頻繁に行動を共にし、一番の友達と思っていたその子。ケンちゃん。
あることがきっかけで猛烈に怒った次男は、そのときからケンちゃんとの一切の付き合いを断った。
それを知ったケンちゃんも、決して自分からは謝らなかった。
冷戦状態のまま、二人は6年生に進級し、初めて同じクラスになった。
同じ教室で一年間、互いに口をきくこともなく過ごし、そして卒業の日を迎えた。
どうせそのうち、いつものように仲直りするんでしょ と軽く考えていた親たちの予想は完全に裏切られ、もう二人の関係が修復することはないのだと思われた。
それが。
いともあっさりと。
「ごめん」
「いいよ」
たったそれだけのLINEメッセージで、凍り付いた二人の関係はきれいにとけてしまったのだ。

そうなるならそうなるで、そんなに簡単なことならば、なぜもっと早くに仲直りできなかったのか。
でも、分かる。
仲がいいからこそ、言えないこと。
仲がいいからこそ、許せないこと。
あるよね、そういうこと。
精一杯張った意地を引っ込めるにも、時間がかかる。
思っていることを実行に移すにも、きっかけが必要で、
なにより勇気がいる。

晴れ晴れとした次男の表情に、私の目にもようやく涙がにじむ。
次男は今、小学校時代最後の課題をやり遂げ、新しい門出を迎えた。
長い長い冬は去って、春がやって来たのだ。

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コメント

次男くん、御卒業おめでとうございます。

ケンちゃんとの仲直りもおめでとう。
女の子同士の友達関係も、裏表があったり、複雑ですが、
男の子も、単純なんだか複雑なんだか、やっぱり単純なんだか、よくわかりませんねcoldsweats01

長い冷戦期間の間に、腹立たしい思いや、悲しみもあったでしょうが、
なんといっても仲良くしたくて寂しい気持ちがいっぱいだったでしょうね。

大切な節目に、きちっと解消できたのは本当によかったですね。

楽しい中学生生活を!!

投稿: クー | 2017年3月24日 (金) 19時02分

クーさん、ありがとうございます。
ほんとにね、単純なんだか複雑なんだか、やっぱり単純なんでしょうね(笑)
この一年ずっと、「あんなやつもう知らない」といいつつも、
ものすごーく意識してたんだと思うんですよ、お互いに。
二人とも、どこまで意地っ張りなんでしょう。
卒業を機に仲直りできて、本当によかったです。

投稿: さぼてんの花 | 2017年3月25日 (土) 14時44分

さぼてんの花さん、こんにちはnote
息子さんのご卒業、おめでとうございます!
「意外なほどあっさりしたもの」とおっしゃっていますが、
いろいろなシーンから深い思いが伝わってきましたよshine
この年頃の男の子の関係も、ちょっと複雑なのかな・・・?
とにかく、仲直りできて、また新たなスタートですね!
どうぞ楽しい中学生活になりますようにshine

投稿: hanano | 2017年3月26日 (日) 15時26分

hananoさん、こんにちは。
ありがとうございます。
そうですねー、微妙な年頃ですから。
親子関係も友達関係も、ま、いろいろありますねcoldsweats01
あと数日で、運賃も大人料金だし、
いろんな意味で「えー!!」ですけど(笑)
やっぱり中学への進学って大きなステップです。

投稿: さぼてんの花 | 2017年3月28日 (火) 16時19分

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