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物忘れ外来

驚いたことに、義母が自分から、認知症の検査を受けたいと言い出した。
探し物がちっとも見つからない。
ここ数日は、探し物ばかりしている。
そんな自分が不安で仕方がないのだと言う。
確かに傍目にも、義母の物忘れはじわじわ進行しているように見える。
だが、急いで検査を受けなければならないほど、新しい変化や兆しが見られるというほどでもない。
まだ、“いつものこと”で片付けてもいいような段階と、私には思われた。
ただ、近い将来、病院で受診する必要も出てくるだろうから、そのときにはどの医療機関にかかるべきかということには、考えを巡らせているところだった。

「心配なんですか?」と尋ねると、素直に頷く義母。
「ねぇ、認知症を診てもらうのって、どこの病院に行けばいいかしら?」という義母の言葉に、
2、3の医療機関の名前が頭には浮かぶものの即答は避け、
近いうちにケアマネさんに相談してみることを約束し、その場は終わった。
できるだけいい形で、今後の通院につなげていきたいと思ったからだ。
今、検査を受けても、おそらく認知症とは診断されないだろう。
認知症が発症する前段階の軽度認知障害(MCI)というところに
義母は来ているのではないか と私は考える。
MCIとは、認知症と似た症状が出ているものの、日常生活には支障がなく、まだ認知症にはなっていない状態のことで、つまりは健常と認知症の中間、グレーゾーンだ。
MCIの人がすべて認知症になるわけでもなく、その10~15%が一年以内に認知症へ移行していくというデータがあるらしい。
そんなきわどいところにいるのかもしれない義母であるから、
機を見て病院にかかることはとても重要だ。
緊急を要するような事態ではないとしても、
本人が受診したいと言い出した今が、いい契機であるのかもしれない。
これは、慎重に、うまく事を運ばなければ!

そんな私の思いとは裏腹に、思い立ったらじっとしていられないのが義母である。
さっさと自分でケアマネさんに電話をかけて「物忘れ外来」がある病院を聞き出し、その病院へ問い合わせをし、2日後の朝8時にはすっかり身支度を整えて私の前に現れた。
「今から物忘れ外来に行ってくるわ!」と言う義母には、意気込みすら感じられる。
え、今ですか!?
やっと子どもを学校へ送り出したところで、なんの用意もない私。
さすがに年寄り一人で受診させるわけにもいかないから、
私もいっしょに行きますと、あれほど言っておいたのに。
「いいのよ、一人で行けるから。大丈夫よ!」と強気の義母。
そりゃあ、歩いてでも行ける距離の総合病院。
行けるには行けるだろうけど。
だからって、一人で行ってどうするの!

再度の説得も虚しく、結局義母は一人で出かけてしまった。
「行ってくる」と彼女が言い出した時から、そうなることは私にはすでに分かっていた。
こんなとき、絶対に人の意見を聞き入れない義母。
自分の思うようにしなければ気が済まない義母。
もう好きにすればいい!
とはいえ、せっかく降って湧いたような受診チャンスだったのに。

落胆する気持ちを抑えきれない私は、落ち着かないまま半日を過ごした。
初診の診察は待ち時間も長いことだし、いっそ今から追いかけて行こうか?と思わないでもなかったが、「一人で行く」と言って聞かない義母と、また同じやりとりを病院の待合室で繰り返す気にもなれない。
コウノメソッドについて書かれた、学習図鑑のように大きくて重たい書籍を抱えては家の中をウロウロし、病院での義母のことをつい想像してしまう。
自分が認知症なのではないかと疑う老年女性が、果敢にも単身で病院に乗り込む。
どんなことがあって、どんな不安を感じているのか、
どうやって受診に漕ぎつけ、今ここにいるのか、
訊かれたことも訊かれないこともどんどんしゃべり、
さぁ、こうなった今は何も隠すことなどない、思う存分調べてほしい と、一見もっともらしい理屈を繰り広げる元気そうなばあさん。
迎え入れたドクターは、ふん、ふんと話を聞き、それでは と、ごく一般的な検査をする。
長谷川式かなんかの認知症スケールと、CTかMRIの画像検査。
そして、大丈夫です、異常はありません、これだけしっかりしていれば大丈夫!と言って笑顔で送りかえす。
あぁ、よかった、安心した と帰宅する義母。

私が心に思い描いたシナリオは、ほぼ正確に当たっていた。
さっそく方々へ電話をし、自分の新しい体験を興奮気味かつ自慢げに話す義母の声を聞くともなく聞きながら、やっぱり一緒に行くんだったとため息の私。
もし同行していたら、SPECTやPETなどの検査についてもドクターに訊いてみることができたのに。
これらの検査では、従来のCTでは分からない脳の血流や代謝の状態を画像で見ることができ、脳細胞が機能しているかどうかがわかる。
つまり、脳の萎縮が始まる以前に、異変を察知することができるのだ。
そうなれば、MCIの段階からの治療の可能性も出てくる。
せっかく大きな病院を受診したというのに、
なんの実りもないままの現実に、大きな後悔を残すことになった。
こんなチャンスは、次はいつ訪れるのだろう。

義母の受診から2週間が過ぎ、ケアマネさんが月に一度の定期訪問で我が家にいらっしゃったとき、物忘れ外来の話題になった。
「で、結局、病院には行かれたんですか?」とケアマネさん。
「いいえ、行ったことはないの」と義母。
見えない何かが部屋の真ん中を通り抜けたように沈黙が流れ、
背筋が凍る思いの私である。

 

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義母」カテゴリの記事

コメント

最後のお義母さまの一文にドキっとしてしまいました。
自覚しちゃって不安になるともう気が気じゃなくなっちゃうんでしょうね。
私も思ったらすぐ行動しちゃうタイプなのでなんとなくわかるかも。
少し待て!ができない。
お義母さまは今はもう安心ってすっきりしちゃってるんでしょうね。
家族はちょっととまどっちゃいますね。
でもまたたびたびそういうことがあれば、またすぐ自分で不安になってしまうと思います。
大丈夫大丈夫って思ってもやっぱりどんどん不安の方が強くなってくるし。
その時はまた相談してくれるかな。
今の治療や検査のこと、ちゃんとご家族の話も聞いて理解してくれるといいですね。

投稿: ところん | 2015年6月18日 (木) 19時39分

ところんさん、こんにちは。
いやもう、ドキドキです…shock
義母が騒いでいた物忘れは、まぁいつもの置き忘れで、
何を今さらって感じなんですが、
それでも自分で怖くなるってことは
なにかしらの異変を自覚しているんだとは思うんです。
でも、本当に怖い変化には気が付いてない。
そこが病気なんですよね。
話をしていても、記憶があやふやなので、時系列がめちゃくちゃ。
適当に自分の中で辻褄を合わせちゃうので、作話のようなことにもなっています。
本人にも感情やプライドがある分、扱いがほんとに難しいです。
もう少し、家族の言うことに耳を傾けてくれるといいんですけどねthink

投稿: さぼてんの花 | 2015年6月19日 (金) 10時15分

こんにちは。

あ゛~down
読み進むにつれて、しっかりしていて大丈夫じゃんup
まだまだこれなら全然心配要らない。
と思っていました。
最後の一言down
イチバン近くにいる人だけが知っている、
これぞ認知症 なのかも知れませんね。
今度は一緒に受診のチャンスがありますようにconfident

投稿: 設計おばさん | 2015年6月19日 (金) 14時18分

こんばんは。
まさしく認知症ですね。
日常生活がおくれていても現れるその病魔。
家族の話を聞かないって
年寄りの「専売特許」でしょうか?。Σ(;・∀・)
次回 受診時では「認知症」の診断が出るかもしれませんね。
その前までになんとかしたかったですね。
季節の変わり目は色々な「何か」が出やすいので
「介護日誌」ならぬ「観察日誌」をつけると
病気の進行のスピードが見えてくる場合もあります。
早く 再受診のきっかけがあればいいのですが。。。

投稿: | 2015年6月19日 (金) 23時30分

そ、それは…
本当に行っていないと思っているのか、
ケアマネさんには、行ったことを言いたくなくて、
嘘をついたのか…

でも、病院から帰ってすぐの時は、ほうぼうに電話していたんですものね。
やっぱり忘れちゃったのか…

病院も、念のために次はご家族と来てくださいねとか言って、
終わりにしないでくれればよかったのに、
お義母さんの話を鵜呑みにしちゃったんですかねえ

うちも、すぐにでもあり得そうな話で、
つい専門機関には期待してしまいますが、
普段見ている人でないと、難しいんですね。

投稿: クー | 2015年6月20日 (土) 22時00分

設計おばさんさま、こんばんは。
でしょう?
ちょっと見には、しっかりしているように見えるんで
騙されちゃうんですよ!shock
なかなか人には家族の思いを分かってもらえません。
かと言って、誰の目にも明らかな状態になってしまうのも
こわいです~sweat01
とにかく今は、十分に気を配って見守りたいです。

投稿: さぼてんの花 | 2015年6月20日 (土) 22時25分

舞さん、どうしよう~sweat01
ここ一年くらい見ていても、
進んできている感じがしています。
画像には特に変化はないということですが、
画像検査が診断の決め手ではないですものね…
家族の話を聞かないのは、
専売特許ですね~(笑)
義母の場合は、もとの性格も災いしてますけど。
あー、私は将来、ボケてもかわいい年寄りを目指します…

投稿: さぼてんの花 | 2015年6月20日 (土) 22時33分

クーさん、こんばんは。
それがね、あのあと、
「行ったんじゃなかったの?」と言われて、
え?ちょっと待って! となって、
時間をかけて思い出しました。
演技ではないです。
言われるまで、検査を受けたことは頭の中から消えていました。
もっと進んでくると、本当に思い出せなくなっていくんでしょうか。
ケアマネさんも、次は家族といっしょに と口添えしてくれたんですけど、いつもその場しのぎの返事ばかりする義母ですからね(-_-;)
だけど、記憶が消えていく怖さを実感した瞬間でした。
下手なホラー映画よりも怖いですよ~

投稿: さぼてんの花 | 2015年6月20日 (土) 22時45分

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